確定拠出型年金のメリット・デメリットのお話
転職した元同僚から、確定拠出型年金について聞かれました。
というのも、転職して間もなく会社から確定拠出型年金のご案内が来たようです。
梅田で待ち合わせをし、コーヒーを一杯おごって頂き、確定拠出型年金のメリット・デメリットについてお話ししました。
※この記事は、相談者の同意を得て作成しております。
記事概要
確定拠出型年金の概要
確定拠出型年金(通称:401k)とは、
毎月掛け金を拠出し、投資信託で運用することで形成する年金のことです。
年金の受け取りは、年金形式で毎月貰うこともできますし、一時所得として一括で受け取ることもできます。
投資信託で運用する、ということは、通常の預金と違い運用成績が良ければプラス、悪かったりするとマイナスになるということです。
一度確定拠出型年金に加入すると、掛け金は原則60歳まで保管されます。会社を退職した場合でも、掛け金を次の会社の確定拠出型年金の口座に移管したり、個人型確定拠出型年金の口座に移管することも可能で、
不足する公的年金の上乗せの年金として注目されております。
そして、確定拠出型年金には、大きく二つのタイプがあります。
@個人型確定拠出年金(通称:iDeCo)
A企業型確定拠出年金(通称:企業型DC)
そして、A企業型確定拠出年金にはさらに、企業が掛け金を払ってくれるタイプと、
マッチング拠出といって、従業員が任意で掛け金を拠出するものとあります。
友人の場合は、Aの企業型確定拠出年金であり、企業が掛け金を払ってくれるタイプでした。
初めに僕の意見を申し上げておきますと、
実に多くのFP(ファイナンシャルプランナー)がこの確定拠出型年金を絶賛しますが、
僕は逆で、むしろ【ハリボテ年金】としか思っておりません。
理由は後ほど説明し致しますが、今回の場合給与からの天引きではなく、企業が拠出してくれる(友人の手出しがない)ということで、とりあえず『良し』としました。
もし、マッチング拠出(友人の給与からの天引き)なら、
『そんなもん、NISAでも使って自分で運用した方がええで』
と言っております。
理由はただ一つ、
自分のお金なのに融通がきかないから。
これに尽きます。
確定拠出型年金のメリット・デメリット
確定拠出型年金が、融通が利かないというのは、以下のような理由です。
デメリット
・確定拠出型年金により拠出した掛け金は、60歳まで引き出すことが原則不可能
・運用する投資信託が限られており、直接株式や債券等には投資できない
・投資信託に係る事務手数料+信託報酬(以下、信託手数料)が、割引はあるもののかかってくる
・例えば会社を辞めた時に、そのタイミングで投資信託を解約しなければいけないので、運用実績に支障をきたす場合がある
最初にデメリットを伝えるFPはあまりお見かけしませんが、一応メリットも話しておきます。
メリット
・個人で掛け金を拠出している場合、掛け金が全額所得控除になる
・運用益に通常20%(復興特別所得税を除く)かかる利子所得税が非課税となる
・企業が掛け金として出している場合は、損金として計上し節税できる
・年金として受け取る時に、雑所得の公的年金等控除が使える
・運用する投資信託の信託手数料に割引がある
といったところで、特に掛け金の全額所得控除と運用益の非課税は多くのFPが絶賛するところです。
とは言っても、今回は給与天引きではないので、全額所得控除のメリットは使えません。
運用はどうやってするの?
予め決められた投資信託に掛け金を配分します。
企業型の場合、設定できる投資信託が少ない場合が多いです。
今回、掛け金の額が分からなかったので、掛け金の額を会社に確認するように伝えております。
できるならば、この投資信託を取り扱っている会社の従業員に来てもらい、詳細な説明をもらうこと、もし可能ならば僕も立ち合うと話をしました。
その上で、各投資信託の特徴を大まかに説明し、特に着目する点もお伝えしました。
以下、要点です。
・運用実績、目論見書の見るべきところは、年利何%稼いできた(稼ぐ予定)かということ
・スイッチング(預替え)に係る解約控除が発生する投資信託はどれかしっかり確認すること
・基本株式型の投資信託はアクティブ運用、債権型はパッシブ運用となる
スイッチング(預替え)・・・掛け金を投入している投資信託から別の投資信託に替えること
解約控除・・・要するに解約手数料。市場調整控除なども含まれる。これがあるから、投資信託を提供している会社は損を出さないようになっている。積み立て系の保険も同じような仕組みがある。
アクティブ運用・・・大きく伸びることもあるが、大きく沈むこともある運用法。タイミングが要(かなめ)。
パッシブ運用・・・大きく伸びることも、大きく沈むことも基本少ない運用法。運用益は低いがリスクも低い傾向にある
この三つを押さえて、後はタイミングを観ながら、株中心の投資信託・債券中心の投資信託の配分を随時見直していけば良いと伝えました。
見せて頂いた資料は、ごちゃごちゃしていて、分かりにくかったのですが、その為に、私たちのようなFPが居るといっても過言ではありません。
【運用実績表】赤○が注目するところ
いろいろ書いてありますが、要するに、直近の1年の稼ぎを観るのが一番分かりやすい。
確定拠出型年金の何が問題か?
所得控除や公的年金等控除、運用益の非課税があるのは良いのですが、この確定拠出型年金の何が問題か、ということをお話しします。
教えてくれる人がいない
一つ目の問題として、投資信託の商品内容や運用について分かるように教えてくれる人がいない。
ということです。
本来、投資信託を販売している金融業者がするべきなのですが、不思議なことに、さも当然のように加入させられ、ほったらかし。
これは、横着な保険会社の社員が、保険を売ったらそれで終わり、
不動産屋さんで言ったら、不動産を売ったらそれで終わり、
というようなことと同じものです。しかも、それが通例としてまかり通っていて、運用している本人でさえも、「おかしいな?もっと説明して欲しいな?」と思わないところです。
確定拠出型年金で老後は安泰?
公的年金だけでは、老後2000万円、3000万円不足すると言われております。
では、確定拠出型年金で積み立てればこの不足分が賄えるかといえば、
答えはNoです。
例えば、22歳から毎月1万円ずつ積み立てて、年利5%で60歳まで運用できたとしても、
13275842円と、2000万円に遠く及びません。
これを観てどう思いますでしょうか?
まず、そもそも毎月の1万円も掛け金を用意してくれる企業が今の時代少ないと思いますし、個人でしていても生活費を押さえながら、毎月1万円を38年間も用意できる人が何人いるでしょうか?
何より運用実績を年利5%で38年も維持することはプロでも難しいです。5%に満たないどころか、マイナスの年もあるわけです。
さらに投資信託には信託手数料がかかってくるので、これも考慮した上での年利5%ですから、不利な状況で投資していると言わざるを得ません。
それでいて、老後資金を補てんできるかどうか分からない。
僕が【ハリボテ年金】といっている所以です。
会社が確定拠出型年金をしているから、年金はひとまず安心、と加入しているだけで安心している運用者も多いのが心配です。
ハッキリ申し上げて、これは政府と金融業者がタッグになって作り上げた、まやかしの年金とすら言えます。
公的年金だけだと国民が不安がるから、政府公認の確定拠出型年金を推進すれば、年金不安が和らぐであろうし、株式・債権市場も活発になる、
そんな魂胆が観えて仕方ありません。
転職の多い時代には不向き
今の時代、同じ会社で一生働き続ける方は果たしてどれほどいるでしょうか?
確定拠出型年金は、掛け金を60歳まで様々な金融機関に移し替えることは可能ですが、会社を辞める度に投資信託を解約しなければなりません。
例えその時運用実績がマイナスであろうと、イケイケのプラスであろうと、解約です。
そして、投資信託によっては、タイミングによって『解約控除』というペナルティが掛けられます。
【解約控除の説明資料】
さらに会社によっては、会社が掛け金を出している場合、掛け金の一部しか移管を認めない場合もあり、概ね3年以内の退職は減額されます。
つまりは、運用ではなく、転職というライフサイクルにより、掛け金が減ってしまうおそれがあるということです。
会社を退職するタイミングを、確定拠出型年金に合わせる、なんてことはしないと思います。
自分のお金に対して、これほど融通が利かないのもの問題です。
ちなみに、僕としては60歳まで掛け金を引き出せない、というデメリットさえなければ、一つの資産運用法としては有りだと思いますが、
自分で掛け金を払うほどのメリットは、今のところ感じられません。
今回は、友人の手出しが無く、企業が掛け金を払うということでしたので、年金不足は補えないとしても、投資の勉強にもなりますので、積極的な運用を薦めております。
老後を不安がるなら
最後に、問題の本質に迫りながら、老後に備える解決法というものを伝授します。
金額の一人歩き
「老後2000万円不足する」とはかの財務大臣がおっしゃったことですが、
一律で2000万円の老後資金が必要でしょうか?ということを考えてみましょう。
例えば70歳のAさん、Bさんが居ます。
Aさんは年金を毎月16万円ほどもらい、Bさんは30万円ほどもらっております。
Aさんはサラリーマン時代、夫婦共働きで頑張って住宅ローンを完済し、家に係るお金は年間10万円ほどの固定資産税のみです。この度、危険運転をしかねないということで、車も手放しました。ほそぼそとしておりますので、月々の生活費は11万円ほどで間にあっております。
対するBさんは、まだまだやんちゃで、スポーツカーを乗り回し、持ち家は持ってなく、1ヶ月8万円の賃貸で暮らし、生活費は25万ほど掛かっております。
以上の2人の1ヶ月の貯蓄額は5万円で同じです。
この二人に対して、一律2000万円不足する、というのは如何に無駄な議論かが分かります。
Bさんは確かに2000万円を、公的年金のほか積み立てる必要がある、或いはそれに変わる資産を持っておく必要がありますが、Aさんは必ずしもその必要はないと言えます。
要するに、人のライフプランや生活スタイルによって、必要な老後資金は違うという事実を、報道も世論も忘れてはいないでしょうか?
大事なのはライフプラン
確定拠出型年金はFP6分野でいう『金融資産運用』にあたりますが、資産運用における一部でしかありません。
例えば、Aさんが、
「日本の暮らしも悪くないけど、海外に移住したいな」
と言いましたら、
「それなら、土地が安くて安全で、更に物価も安い地域がありますよ」
といって、持ち家を売却し、そのお金で海外移住することできるのです。これはFP6分野でいう、『不動産』の活用です。
晴れて海外移住したAさんは、年金16万円でも物価が安いので、日本よりも裕福な暮らしができました。
というような話になることもあります。
これはもちろんBさんにも言えることで、大事なのな、
老後資金の金額うんぬんよりも、個人のライフプランであることが言えます。
老後資金が心配であれば、住宅費を浮かせるために、親の家を相続したのちに改装して自分が住むことも考えられますし【相続・不動産】、社会保障がその人にとって有利な地域に移住するのも提案できますし【社会保障】、或いは、車を手放すことで維持費を節約する、ということも考えられ、
さらには、同じ金融資産運用の分野でも、NISAの活用や米国債の購入等、他の資産運用法を考えることだってできるのです。
ただ、どれをとっても、
個人がどのような人生・生活を得たいのか
というのがまず先にきますので、老後資金で不足する金額よりも、まずはライフプランを考えることが必要なのではないかと思います。
そしてそのお手伝いがFPの社会的使命であると考えております。
ご相談、心よりおまちしております